気負わず旬を味わって。素材と人に向き合い続ける“まちの寿司屋”

グルメ

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「味を足したり変えたりするのではなく、そのものの良さを味わってほしい」と語るのは、寿司の老舗「美幸」の大将・荻原佐久雄さん。長年の経験で食材を目利きし、その日一番と思えるものを仕入れ、寿司をはじめ多彩な料理を提供しています。近鉄生駒駅側から参道筋を少し上り、東の通りに目をやると現れる信楽焼のたぬきが、美幸の目印です。

〈店舗情報〉
美幸(みこう)
奈良県生駒市本町9-15
☎︎ 0743-75-3040
営業時間
ランチ:12:00 – 14:00
ディナー:17:00 – 22:30
定休日:不定休
2024年9月13日時点の情報です

視覚にも味覚にも季節感を届けてくれる寿司の盛り合わせ

余計なことはせず、素材の味を引き出す

自らの技ではなく食材が主役──その精神は美幸の全ての料理に通底しています。その一方、素材の力を引き出すために必要な手間は惜しみません。丁寧にだしを取るだけでなく、ポン酢などの調味料も手作りしています。

ふわふわ食感のだし巻き卵。だしの優しい香りと味わいが優しい一品
定番料理と季節ごとの一品がずらり。きょうはどれにしよう……と悩むのも楽しいひととき

「寿司屋ですが、それだけにこだわる、といったプライドはないですね。お客さんが楽しんでくれるのがうれしい」と荻原さん。いつ来ても飽きずに喜んでもらえるようにと趣向を凝らしてきた結果、季節の鍋もの、さらには家庭料理と、お品書きはおのずと増えていったといいます。

「納豆揚げ」も荻原さんのアイデア料理。関西人には馴染みが薄かった納豆もおいしく食べてほしい、という思いから生まれました

ランチ営業では自慢の寿司、刺身、天ぷらを手頃な定食として提供。だしのきいたうどんもあり、まるで食堂のように気負わず“普段使い”できます。

カウンター越しの会話が楽しくて

美幸のもう一つの看板メニューが、こだわりの材料で作る自家製の豆腐。きっと秘伝の調合があるに違いない……と思いきや「作り方は、聞かれたらそのままお伝えしていますよ」とのこと! 実際に作ってみたお客さんから報告を受け、再びアドバイスしたりと、そのやり取りが面白いのだそう。

注文した人が瞬く間にたいらげるという豆腐。こっくりとした大豆のうまみが口に広がります

そんな彩り豊かな料理と合わせて味わいたいのが日本酒です。奈良・生駒を中心に、各地の地酒を吟味。お客さんのリクエストで仕入れたお酒もあるそうです。

荻原さんは「寿司屋というと気後れするかもしれませんが、若い人も気軽に入ってきてほしいんです。寿司も出せる料理居酒屋、と思ってくれたらちょうどいいかな」と微笑みます。リーズナブルな価格に加え、一見さんも大歓迎という懐の深さ。店内は、カウンターを構えた伝統的なお寿司屋さんの造りですが、アットホームな空気が漂います。

レトロなペンダントライトは大将自ら取り寄せて設置。遊び心が店づくりのアクセントに

観光情報もお任せあれ

自衛隊員、サラリーマンを経て、荻原さんが料理の道に入ったのは約50年前。ほどなく拠点を生駒に移し、自身にとって未知の領域であった寿司の世界にチャレンジします。
お手本にしたのは、共に働いた熟練の寿司職人たち。弟子入りをせず、当時としては前衛的な形で正統派の寿司の技術を習得したのです。味へのこだわりは大切にしながら、お客さんのためなら、と柔軟に対応するバランス感覚は、ご自身の経歴も深く関係しているのかもしれません。
さらに荻原さんは教育者の顔も持っています。サンタクロースに変身し、地元の保育園に出向くのが冬の恒例行事。近くの中学校ではソフトボール部の指導も行っています。どんな世代にも目線を合わせてくれる荻原さんを慕って、地域の若手経営者がお店に集まることもあるのだとか。

ご自身も孫をもつおじいちゃん。優しい眼差しで街の若者たちを見守っています

現在の場所にお店を移してから、もうすぐ30年。街の歴史や見どころにも精通しています。「観光する前に来られたら、参道のことや夕日がきれいなスポットなど、喜んでお話します。もし街を巡った後なら、ぜひ感想を聞かせてください」。にぎやかな笑い声がきょうも通りに響きます。

〈店舗情報〉
美幸(みこう)
奈良県生駒市本町9-15
☎︎ 0743-75-3040
営業時間
ランチ:12:00 – 14:00
ディナー:17:00 – 22:30
定休日:不定休
2024年9月13日時点の情報です

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