生駒駅南口のチャレンジショップ「サクラサク」

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奈良県生駒市の南口にある「サクラサク」。ここは、生駒市が取り組むチャレンジショップで、商店街の空き店舗を活用し、新しい商いを始めたい方が一歩を踏み出す場として整えられています。2025年、この場所で挑戦を続ける二人の姿があります。ひとりは自家焙煎コーヒー店「Coffee Loom」の木原さん。そしてもうひとりは、アパレルブランド「松井商店」を手がける松井さんです。お二人はそれぞれ異なる分野から生駒に集い、この街に新たな風を吹き込んでいます。

世界を巡り辿り着いた一杯 ― Coffee Loom 木原さん

木原さんがコーヒーに出会ったのは、英語を学ぶために滞在したカナダでのことでした。アルバイト先に選んだスターバックスで、コーヒーが人と人とをつなぐ様子を目の当たりにし、その魅力に引き込まれていきます。帰国後は大学卒業まで日本のカフェで働き、さらにオーストラリア・メルボルンで世界屈指のカフェ文化に触れました。

「最初はラテアートに惹かれて始めたのですが、抽出や焙煎の奥深さを知るほどに、さらに夢中になっていきました。」

帰国後は大阪のタカムラコーヒーや長崎のカリオモンズコーヒーなどで研鑽を積み、抽出から焙煎まで幅広く学ばれました。そして、コーヒーの国際的な評価資格である「CQI Qアラビカグレーダー」を取得し、自家焙煎の豆を扱う「Coffee Loom」を立ち上げられました。

鹿児島にルーツを持ちながら、幼稚園の頃から生駒で育ち、人生で最も長く過ごした場所がこの街だという木原さん。生駒は住みやすい街と感じる一方、土日祝の駅前に人が少ないことを寂しく思っていたそうです。そんな折に出会ったのが、チャレンジショップ「サクラサク」でした。

「多くの人が暮らしているのに、駅前には人通りが少ないと感じていました。サクラサクでコーヒーを提供しながら、生駒の方々と触れ合い、この街の良さを改めて実感しました。ここからもっと人の流れが生まれてほしいと願っています。」

現在は奈良町に本格的な店舗を構える準備を進めておられ、生駒で木原さんのコーヒーを味わえるのはサクラサクでの限られた期間のみとなります。焙煎の「ゴールはない世界」を探求する木原さんの一杯は、生駒においても特別な体験をもたらしています。

*2025年12月現在、木原様は 奈良市のならまちで Coffee Loom をオープンされております。

糸から紡ぐ価値 ― 松井商店 松井さん

一方の松井さんは、ファッション業界から生駒に拠点を移された方です。東大阪にルーツを持ち、大学卒業後から生駒で暮らしてこられました。お父様が繊維関連のお仕事をされていたこともあり、自然とファッションの道へ。大手ブランドのOEMを含め、長年にわたり業界で経験を積まれました。

その中で次第に、業界の利益構造に限界を感じられるようになります。
 「価値のあるものを適正な価格で届けたい。自分が本当に着たいと思える服を作りたい。」
 この思いを胸に、自身のブランド「MTCREATION」を立ち上げられました。

MTCREATIONの大きな特徴は「糸」へのこだわりにあります。豊富な業界経験から数多くの糸の特性を熟知されており、素材選びをものづくりの出発点とされています。糸の質感や色合い、耐久性を見極め、さらに経験豊富な職人の技術力や全面的に協力してくださる工場の生産体制を考慮することで、魅力的な商品ラインナップを形づくられています。個人ブランドでありながら、豊富なカラーバリエーションと商品数を展開できるのは、その知識と交渉力に裏打ちされたものです。

最初に店舗を構えられたのは大阪・住吉でした。地域に根ざす取り組みを経て、自身のブランドの方向性を改めて見直す貴重な経験となりました。その後、偶然声をかけられた百貨店の催事に出店したことが転機となり、担当者の評価を受けて定期的に催事へ参加するようになられました。やがて、「期間限定の催事」ではなく「腰を据えてお客様と向き合える場所」を求めるようになり、その答えが生駒駅南口の「サクラサク」でした。

「生駒は静かで自然が豊か。住んでいる方々も品があり、モノの価値をしっかりと見極められると感じます。一方で、生駒駅周辺にはもっと活気があってもよいと思います。住宅街のゆとりを守りつつ、駅前は商業地として楽しい街にしていきたいのです。」

松井さんは、サクラサクのある「さくら通り」にも大きな可能性を感じておられます。現状では地元の方でも名前を知らないことが多い通りですが、「ぴっくりどおりが日常の買い物の場であるなら、さくら通りは“ゆとりある時間”を過ごせる場として育っていける」と語ります。

二人が描く、生駒のこれから

木原さんと松井さん。歩んでこられた道のりや取り組まれている分野は異なりますが、お二人に共通しているのは「生駒という街をもっと楽しくしたい」という思いです。サクラサクは単なる出店の場にとどまらず、街の未来を考える実験の場でもあります。

人が集うカフェ文化を根付かせたい木原さん。糸から紡ぎ出される洋服を通して、暮らしに上質な価値を届けたい松井さん。お二人の挑戦は、生駒駅南口に新しい風を吹き込み、街に小さな変化の芽を育てています。

2025年、生駒の南口で「サクラサク」という名前のとおりに花を咲かせようと奮闘する二人。その姿は、この街の未来を照らす光のように見えます。

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